「医療通訳育成カリキュラム基準」は、病院で雇用される専門職としての医療通訳者の育成を目ざしたものです。ここでは、「医療通訳育成カリキュラム基準」、「医療通訳共通基準」をもとに、医療通訳ボランティアの育成のための推奨カリキュラムを提示します。
これまで、多くのボランティアの助力によって、外国人医療の現場は支えられてきました。ボランティアであっても、患者の命に関わる重要な役割を担っており、医療通訳者としての一定の能力や知識は必要です。ここでは、ボランティアグループ、NPO団体、自治体などでの医療通訳人材の育成に活用できるカリキュラム基準と推奨プログラムを提案します。
医療通訳ボランティア育成カリキュラム基準と推奨研修プログラム
カリキュラム基準と「医療通訳」テキストを組み合わせ研修を実施することが可能です。
※テキストは厚生労働省のサイトよりダウンロードができます。
※このカリキュラムはセンターが医療通訳育成カリキュラム基準をベースにボランティア向けとして提案しているもので、厚生労働省で公開されているカリキュラムとは異なります。
本医療通訳ボランティアカリキュラム基準は医療機関(主に初期救急、診療所、クリニック)における外国人患者と医療従事者間の対話を支援する通訳者(医療職員、団体職員、ボランティア)などに対して一定の質とレベルを持った通訳者を育成するために行うべき研修や指導についてまとめるものである。本カリキュラムは、医療通訳ボランティアを養成する機関や団体がその育成を行うにあたって、必要な実施規定、プログラム内容や時間配分を提示する。本基準は、「医療通訳育成カリキュラム」「医療通訳共通基準」を基にした医療通訳ボランティア向け研修基準である。
1. 医療通訳ボランティアの役割と対応場面
- 対話コミュニケーションを通訳するために必要な基礎的な知識や語彙、能力とスキルを有し、プライマリー、一般病院における診療等の場面で、言葉の媒介者として、対話者間のコミュニケーションを支援する。
- 言語的、文化的、社会的に異なる医療従事者と患者等の間に入り、両者の相互理解を支援するため、必要に応じて専門家と患者の間の文化的橋渡しを行う
知識
-
医療従事者と患者の健康、医療、コミュニケーションに関わる文化的および社会的差異について知識と理解がある
-
プライマリー、一般病院で使われる基礎知識や関連用語を有している
能力とスキル
-
母語と通訳言語において一定の運用能力を有している
-
通訳技術(対話型の逐次通訳)を有している
-
状況に応じた事前準備、情報収集をすることができる
-
利用者の合意の下に必要に応じて適切な形での文化仲介を行うことができる
-
万全な体調で業務にあたれるよう、感染予防と体調、メンタル管理を行うことができる
-
自身の通訳を振り返り、常に能力の維持、向上を図ることができる
倫理
-
通訳者としての役割を自覚し、業務規定、職業倫理に則った対応ができる
-
医療に関わる通訳者としての意識と責任を持って行動することができる
-
すべての人をかけがえのない存在として尊重し、敬意を持って接することができる
-
話し手の意図を正確に理解し、忠実に訳すことができる
-
すべての利用者に対して中立・公平な態度を取ることができる
-
職務上知り得た情報等の秘密を保守し、プライバシーに配慮することができる
-
自身の専門的、言語的能力の限界を自覚し、適切な判断することができる
2. 育成カリキュラムを受講する条件
以下が育成カリキュラムを受講するための条件である
-
母語において、高校卒業程度の知識、国語の知識(語彙・表現・文法に関する知識)があること
-
対象言語において日常的な話題について標準的な会話であれば理解できる(B1以上)
-
健康や身体の話題について要点を理解し、そのことについて事前準備なしで会話することができる
-
対象言語が話されている地域を旅行して起こりそうな事態に対処することができる。
-
経験、出来事、夢、希望、野心を説明し、意見や計画の理由、説明を短く述べることができる。
-
母語、対象言語の国や地域における一般的な習慣や社会常識を理解している
-
文化や社会において異なる価値観を認めることができる
-
利用者に対して敬意を持ちコミュニケーションを図ることができる
※ カリキュラム実施するにあたり、対象者には一定のレベルが必要である。言語能力はヨーロッパ言語共通基準参照枠B1程度が望ましい。
※ 対象者のレベルを統一しない研修の実施は、育成の効果を得ることが難しいため推奨しない。
3. 研修修了の条件
修了には8割以上の参加を条件とする
4. 研修の内容
医療通訳ボランティアに必要な知識、能力とスキル、倫理、対応力を身につけるための研修を行う
-
医療通訳ボランティアの役割(医療通訳について基礎概念や知識)
-
言語プロフィール(自分自身の言語能力の把握、用語集の作成方法)
-
医療通訳者として遵守すべき行動規範と倫理
-
医療知識基礎*(身体の仕組みと疾患の基礎知識 / 検査・薬・感染症に関する基礎知識)
-
日本の医療制度に関する基礎知識*
-
通訳技術(逐次通訳のプロセスと通訳トレーニング、ノートテーキング、模擬通訳)
-
医療従事者と患者の文化的および社会的背景についての理解
-
医療通訳者のコミュニケーション力(対人コミュニケーション、文化仲介)
-
医療通訳者の自己管理(健康管理・心の管理)
-
通訳実技(通訳業務の流れとその対応、通訳者の立ち位置とその影響、場面別模擬通訳)
*利用地域の状況に合わせて講義内容を追加する
5. 実習の推奨
医療通訳実務を行う者に対しては、医療通訳研修終了後、医療機関の流れや業務を理解することを目的とした病院実習を行うことが望ましい
-
実習は、研修終了後すみやかに実施すること
-
実習前には必ずオリエンテーションを受け業務範囲や責任を確認すること
-
5日以上の実習が望ましい
-
実習時には記録をつけ、自身の振り返りを行うこと
-
実習中は、単独での通訳業務、翻訳等は行わないこと
-
実習期間中は、実習生は単独で行動せず、常に病院職員(コーディネイター)の指導のもと通訳業務に従事すること
実習におけるコーディネイターについて
-
研修では、医療通訳ボランティアに指導、教育ができるコーディネイターをつけること
-
コーディネイターは、医療通訳者の業務や役割、医療通訳における課題など医療通訳について精通している者が担当するのが望ましい
-
コーディネイターは、受け入れ医療機関との連絡、調整を行い、必ず事前に実習生の業務範囲や責任を確認すること
6. 研修終了後の能力維持・向上および指導について
-
通訳能力や知識の維持、向上のために定期的に研修を受けること
-
専門家を介しての通訳事例の検討、共有を行い定期的な指導を受けること
医療通訳ボランティアのための研修カリキュラム(自治体研修向け)